『わたしの台所』(沢村貞子/光文社文庫) ― 時代を超えた丁寧な暮らしのバイブル
こんばんは、扇町みつるです。
沢村貞子さんのエッセイ3冊目を読了しました。
『わたしの台所』というタイトルだけに、お料理や家事に関する率が高いです。
家事は美容体操
明治の生まれの沢村さんは、浅草の下町に生まれ、小さな頃から母親から家事を仕込まれて育ちました。なので、小学校に上がる頃にはご飯も炊けるようになっており、沢村さんにとって家事はちょっとした運動みたいな位置づけだったそうです。
低血圧のせいで、娘のころから体操は苦手だった。鉄棒にぶらさがったりかけ足をしたりするとすぐ眼をまわして、担当の先生を困らせたものだった。
そのくせ、家の中で母に仕込まれた掃除、洗濯、水仕事は、いっこうに苦にならなかった。はげしい運動は出来なかったけれど、こまめに身体を動かすことは、辛いどころか気持ちがいい、ということを、小さい時から知っていた。
面倒だと思う日もあったようだけど、やらなかったらやらなかったで身体がなまってしまう…といったところだったのでしょう。
料理のレシピ
本書には常備菜や梅酒などのレシピがいくつか載っています。今風の言葉で言えば”昭和レトロ”で素朴なメニューですが、興味のある方はそちらも注目してみるといいと思います。
レシピの他にも、天ぷらを美味しく揚げるコツや、冷凍保存に関すること、だしの取り方(かつお節を削るところから)なども載っています。
丁寧な暮らしを考えている方の参考になるはずです。
和服を日常着にしたいという方にも
お若い頃は洋服を着ていたという沢村さんですが、年配になってからはほぼ着物で過ごしていたそうです。
お出かけの時はもちろん、家事をするときも着物でしていました。
和服のお洒落に関することも本書には書かれています。そして、何よりも気楽に着ることを言っています。
若いお嬢さんたちが和服を敬遠するのは、不便さのほかに、着付けの面倒さのせいもあると思う。洋服と違って、どこからどこまで自分で格好をつけなければならないのだから、確かにむずかしい。
所詮は着慣れるより仕方がない。けれど、もし、
「そのほかに着付けのコツは?」
ときかれれば、私は、
「気楽に着ること」
と答えるだろう。
家事は女がするもの?
沢村さんは明治の生まれ。私よりお若い方からすれば、ひいおばあちゃんくらいの世代となる方です。
なので、家事は女がするものだと言われて育ちました。
実際、旦那さまのために美味しい料理を作ったりしていましたが、沢村さん自身はかなり先進的な考えを持っていました。
それにしても、素敵な暮らしにかかせない大切な家事を何故、女の人だけにさせようとするのかしら。男の子にも小さいときからよく仕込んでおけば、男やもめにウジがわくこともないだろうし、年をとってもすることもなく、いたずらに家の中をウロウロするみじめさを味わわなくてもすむだろうに……。
「さあさあ、勉強はそのくらいにして、台所を手伝って頂戴な、太郎も花子も。これは頭もやすまるし、丁度いい運動にもなるんだからね」
お母さん方、どうぞおっしゃって下さいな。
そういうふうに育てられた子供さんたちは、大人になって家庭をもっても、サッサと二人で料理をこしらえて、セッセと互いの仕事に打ちこんで、人間らしく明るい暮らしが出来るだろう、と私は思うのだけれど……どうかしら。
これが書かれたのはかれこれ40年は前だと思います。今現在にも十分通じませんか?
古さを感じさせないエッセイ
本書が最初に出版されたのは昭和55年(1980)年だそうです。もちろん、今のようにインターネットも無いし、沢村さんの場合最新の家電を使うタイプでもなかったので、暮らしの中で使われていた家電は冷蔵庫やテレビくらいのようだし、時代的に当然固定電話です。
そういったものは時代を感じさせはするけれど、沢村さんご自身の考えは、社会に関してのことにせよ、家事に関してのことにせよ、古さはほとんど感じません。
お料理や和服についてはもちろん、沢村さんの生き方を知ることは、まさに温故知新と言えるでしょう。
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