『わたしの茶の間』(沢村貞子/光文社文庫) ― ベテラン女優の珠玉のエッセイ
こんばんは、扇町みつるです。
前回に引き続き、沢村貞子さんのエッセイを一冊。
実は、昨年放送されたテレビ朝日系列のドラマ「トットちゃん!」が放送され、沢村貞子さんのことを知った時、最初に読んだのがこの『わたしの茶の間』(沢村貞子/光文社文庫)でした。
あの黒柳徹子さんが「かあさん」と慕った女優さんということで興味が湧き、調べてみるとエッセイを何冊も出しておられたということで、その中の一冊である本書を手に取りました。
学業から女優へ
沢村貞子さんは明治41年、東京浅草猿若町の生まれ。父親は役者をしており、自身の男兄弟も役者の道に入りました。歌舞伎だったため、女の子は家事手伝い要員。5歳の頃から家事を仕込まれ、そのおかげか大人になってから家事は億劫ではなかったそうです。
まだまだ庶民が女子の高等教育には消極的だったこの時代に、家庭教師をしながら女学校に通い、女子大へ進学しました。
本当は教師になりたかったようですが、あるきっかけから教師の道には入らず女優に。女優になったからには主役を目指したくなると思うのですが、早いうちから脇役に徹しておりました。
本書は、そんな沢村さんの子供時代の思い出、女学校時代や若手女優時代のこと、年を経てからの生活、料理、和服、日々の暮らしの小さな幸せなどが綴られています。
名の通ったベテラン女優でありながら、家事もそつなくこなし、贅沢しない質素な暮らしぶりがうかがえます。
質素ながらも食へのこだわりは強く、かと言って贅沢なものを食べるということではなく、旬のものを美味しく料理し、旦那様と美味しくいただく。バブルの時代も通り抜けながらも、飽食に染まることなく、「身の丈に合った暮らし」を貫いておられたようです。
一刀彫のおひなさま
私のお気に入りの一編は、「小さな内裏びな」。
家庭教師をしながら通う女学校の修学旅行でみつけた小さなおひなさま。進学を考えていたので財布の紐をかたくしていたけれど、どうしても欲しくて思い切って購入。戦災をくぐり抜け、それからはお節句の時期以外も飾っていた。
という話。
「身の丈に合った暮らし」というのは年齢的な意味もあり、その年齢に応じた、無理のない生活をということも書かれており、老いをどう受け止めたらいいか、そんな悩みを持つ大人が読むエッセイとして色褪せることは無いでしょう。
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